【助成金情報】助成金の不正受給とは?実際の事例と事業主が知っておきたいリスク・防止策|岡山・倉敷

この記事の結論

  • 助成金の不正受給とは、うその内容で申請して助成金を受け取る(受け取ろうとする)ことです。うっかりした書き間違いと、同じものとは扱われていません。
  • 不正受給と判断されると、助成金の返還に加えて、延滞金、不正受給額の2割にあたる額の納付、5年間の不支給、事業主名の公表などが問題になります。
  • 社労士や申請代行者に任せていても、事業主が不正受給を問われることがあります。申請内容を自社の実態と見比べる作業は、事業主自身の仕事です。
  • 防ぐ方法はシンプルです。「申請書に書くこと」と「実際の労務管理」を一致させ、記録を残し、提出前に自分の目で確認することです。

※本記事は、令和8年10月時点で確認できた厚生労働省・労働局の公表資料にもとづいています。助成金ごとに要件や取り扱いが異なるため、実際に申請するときは、必ず最新の支給要領(助成金ごとのルールブック)をご確認ください。


助成金の不正受給とは?

厚生労働省の説明

厚生労働省の「雇用関係助成金共通要領Q&A」(令和8年9月14日版)では、不正受給は次のように説明されています。

  • 故意に、申請書などにうその内容を書いたり、うその証明をしたりして助成金を受けた場合は、不正受給にあたります。
  • 実際にはお金を受け取っていなくても、受け取ろうとした場合にも、不正受給にあたることがあります。

「故意に」とは、わざと、という意味です。

典型的なのは「実態と申請内容が違う」ケース

公表されている事例(次の章で紹介します)を見ると、たとえば次のような行為が問題になっています。

  • 休業していない日を、休業したことにして申請した
  • 雇っていない人を、雇ったことにして申請した
  • 実際には行っていない訓練を、行ったことにして申請した

どれも、書類の内容が実際の出来事と違っているという点が共通しています。

単なる書類の不備や申請ミスとは違います

書類の書き漏れや、日付の書き間違いなどの申請ミスは、よくあることです。厚生労働省も、提出前に書類を見直すよう呼びかけています。

不正受給にあたるかどうかは、うその内容を意図して書いたかどうかなど、個別の事情と制度の要件をもとに判断されます。ミスをしたら即、不正受給になるわけではありません。

一方で、「ミスだったから大丈夫」と自分で決めつけるのも危険です。あとから申請内容の誤りに気づいたときは、自分だけで抱え込まず、早めに申請先の労働局か専門家に相談しましょう。


実際に公表された助成金の不正受給事例

厚生労働省や都道府県労働局は、不正受給が確認された事案を公表しています。ここでは、公表資料から4つの事例を紹介します。

各事例は、公表資料に書かれている内容の要約です。「注意したい点」は、筆者による一般的な解説です。なお、事業主名や社労士名は、本記事では省略しています。

事例1:休業や教育訓練をしていないのに、したと申請(雇用調整助成金)

何が行われたのか 酒類・業務用食品の卸売業の事業主が、雇用調整助成金(休業や教育訓練などで従業員の雇用を維持した事業主を助ける制度)について、約4,580万円を不正に受け取ったと公表されました。支給決定の取り消しは令和5年2月10日付で、公表時点で全額が返還済みとされています。

何が問題だったのか 公表資料には、「休業又は教育訓練を行っていないにもかかわらず、虚偽の申請書類を作成し」と書かれています。実際には休業も教育訓練もしていないのに、したように書類を作ったことが問題とされました。

注意したい点(筆者解説) 休業の助成金では、「実際に休業した日」と「申請書に書いた日」が一致していることが土台になります。申請の前に、出勤簿やシフト表と申請書を見比べる習慣をつけましょう。

出典:山口労働局「雇用関係助成金の不正受給事案の公表について」(令和5年3月10日)

事例2:雇用の実績がないのに、あるように申請(雇用調整助成金・キャリアアップ助成金)

何が行われたのか コンサルティング業の事業主が、雇用調整助成金(約762万円)とキャリアアップ助成金(57万円)を不正に受け取ったと公表されました。支給決定の取り消しは令和5年2月1日付です。雇用調整助成金は一部、キャリアアップ助成金は全額が返還済みとされています。

何が問題だったのか 公表資料には、「ともに雇用実績がないにもかかわらず、虚偽の申請書類を作成し」と書かれています。実際には雇っていた実績がないのに、書類上だけ雇用を作ったことが問題とされました。

注意したい点(筆者解説) 助成金の多くは、「誰を、いつから、どんな条件で雇っているか」が出発点になります。雇用契約書、賃金台帳、社会保険や雇用保険の加入記録など、雇用の事実を示す記録が実際にそろっているかを確認しましょう。

出典:群馬労働局「雇用関係助成金を不正に受給した事業主の公表について」(令和5年7月20日)

事例3:すでに正社員だった人を「正社員にした」と申請(キャリアアップ助成金・正社員化コース)

何が行われたのか 岡山労働局は、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の不正受給に社会保険労務士が関与したとして、公表を行いました。公表資料には、返還を命じた額57万円(全額返還済み)、支給決定の取り消しは令和5年3月22日付と書かれています。

何が問題だったのか 公表資料によると、「既に正社員の身分であった者を正社員に転換したとする虚偽の申請書類」が提出されました。助成の対象は「正社員に切り替えた」という取り組みなので、もともと正社員だった人は対象になりません。

注意したい点(筆者解説) この資料に書かれているのは社労士の関与です。事業所側にどのような措置があったかは、この資料からは分かりません。この事例から学べるのは、「その人の雇用形態は、切り替えの前は何だったのか」を契約書などの記録で確かめておく大切さです。

出典:岡山労働局「雇用関係助成金の不正受給事案の公表について」(令和5年4月28日)

事例4:訓練の実態がない、採用の経緯が実態と違う(人材開発支援助成金・特定求職者雇用開発助成金)

何が行われたのか 岡山労働局が令和4年8月26日に公表した事案です。ここでも、社会保険労務士が不正受給に関与したとされています。

  • 人材開発支援助成金(特別育成訓練コース):約43万9千円(全額返還済み)。「訓練の実態がなかったにも関わらず、虚偽の書類を作成」したとされています。
  • 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース):70万円(全額返還済み)。「過去3年以内に勤務、採用の内定があるにも関わらず、形式的にハローワークでの紹介を受けさせた」とされています。

いずれも支給決定の取り消しは令和4年7月14日付です。

何が問題だったのか 訓練が実際には行われていなかったこと、そして、ハローワークの紹介という形だけを整えて、実際の採用の経緯と食い違っていたことが問題とされました。

注意したい点(筆者解説) 助成金には、「どう採用したか」「実際に訓練をしたか」といった、書類の形ではなく中身を問う要件があります。要件は助成金やコースごとに違うため、自社の取り組みが支給要領の要件に当てはまるか、事前に確認しましょう。

出典:岡山労働局「雇用関係助成金の不正受給事案の公表について」(令和4年8月26日)

4つの事例からいえること

4つの事例に共通するのは、申請書の内容が、実際に起きたことと違っていたという点です。逆にいえば、実態どおりに申請し、その証拠となる記録を残しておくことが、最大の防止策になります。


助成金の不正受給が発覚した場合のリスク

厚生労働省の「雇用関係助成金共通要領Q&A」では、労働局が不正受給と決定した場合に、次のような対応になると説明されています。

刑事告発詐欺、脅迫、贈賄など、刑法にふれる行為があった場合には、刑事告発されることがあります。

項目 内容
助成金の返還 すでに支給された助成金を納めます。
延滞金 不正受給した日の翌日からの延滞金を納めます。
不正受給額の2割 不正受給した額の2割にあたる額を納めます(一般に「違約金」と呼ばれることもあります)。
5年間の不支給措置 不正受給の決定日から5年間、雇用関係助成金を受け取れません。
事業主名などの公表 一定の基準に当てはまる場合に、事業主名・代表者名などが公表されます。

このほかにも、次の点が示されています。

  • 公表される内容:事業主の名称、代表者氏名、事業所の名称・所在地、事業の概要、助成金の名称、金額、不正の内容などです。
  • 法人を作り直した場合:不正受給をした法人をやめて新しい法人を作っても、事業の同一性などから同じ法人と判断されれば、不支給措置が続く場合があります。
  • 調査への協力:労働局は、書類の提出や従業員へのヒアリングなどの調査をお願いすることがあります。協力しない場合は、助成金が支給されないことがあります。
  • 書類の保存:申請に使った書類は、支給決定日の翌日から5年間保存する必要があります。保存されていないと、支給決定が取り消され、返還を求められることがあります。

大切な注意点として、これらの対応は、制度や事案によって内容が変わります。助成金ごとに別の規定がある場合は、そちらに沿って対応されます。「不正があれば、すべての措置が必ずそろって適用される」という意味ではありません。


社労士や申請代行者に任せていても注意が必要

結論:任せていても、事業主が責任を問われることがあります

厚生労働省などの注意喚起リーフレットでは、次のように説明されています。

  • 経営コンサルタントを名乗る事業者に勧められてうその申請書を出した場合や、申請代理人が不正を行った場合でも、事業主が不正受給を問われます。
  • 事業主本人だけでなく、役員、従業員、社会保険労務士、代理人など、申請や書類作成にかかわった人が不正を行った場合も、事業主の不正受給にあたります。

つまり、「専門家に頼んだから、自分は大丈夫」とはいえません。

ただし、事業主と代理人それぞれがどのような責任や処分を受けるかは、具体的なかかわり方や、適用される制度・規定によって変わります。

代理人にも処分があります

社会保険労務士にも、社会保険労務士法にもとづく処分があります。厚生労働省は、懲戒処分(失格・業務の停止・戒告)を受けた社労士を公表しています。たとえば、事業主と共謀して虚偽の事実にもとづく申請書を作り、給付金をだまし取ったことは、失格処分の事例として示されています。

事業主が確認しておきたいこと

  • 申請書の内容を、提出前に自分の目で読む 支給決定の通知は、代理人ではなく事業主宛てに届きます。申請の主体は事業主です。
  • 提出した書類の写しを受け取り、保存する 社労士や弁護士に依頼した場合でも、申請した書類の写しを受け取って保存するよう、厚生労働省は求めています。
  • 確認した記録を残す 事業主と代理人の間で、「内容を確認した」という押印やサインを取り交わすことは差し支えないとされています。ただし、押印があっても書類の不備は増えているので、提出前にもう一度見直すよう呼びかけられています。
  • 「必ずもらえる」「無料で診断」といった勧誘に注意する 厚生労働省や労働局が、特定の事業者に助成金の勧誘を委託することはありません。受け取れない助成金の受給を提案する事業者がいる可能性があるとして、注意が呼びかけられています。迷ったときは、労働局やハローワークに相談してください。
  • 誰に頼めるのかを確認する 雇用関係助成金の申請を、報酬を得て業として代行できるのは、社会保険労務士・社会保険労務士法人(弁護士は代理人として依頼可)とされています。

助成金の不正受給を防ぐためのチェックポイント

不正受給を防ぐ近道は、申請書と実態をそろえることです。申請の前に、次の表を使って確認してみてください。

確認すること 見る書類・見るポイント
申請書の内容は、実際の労務管理と一致しているか 申請書と、実際の働き方や取り組みを見比べます。休業、訓練、雇用の切り替えなど、申請の中心になる事実は特に丁寧に確認します。
記録どうしに食い違いがないか 出勤簿、賃金台帳、雇用契約書、シフト表などが、お互いに合っているか確認します。
要件と期限を満たしているか 支給要領を確認します。支給申請は、特別な定めがない限り、助成金のコースごとに決まった日の翌日から2か月以内に行います。郵送は消印ではなく、期限内に届いている必要があります。労働保険料の未納がある場合は、不支給となる要件もあります。
他の助成金・補助金と重なっていないか 同じ目的や同じ人件費などに対して、二重に受け取ることはできません(併給調整)。国や自治体の補助金も対象になることがあります。
外部に渡す情報は正確か 社労士などに渡す資料や説明が、実際の事実どおりかを確認します。
書類を5年間保存できるか 申請書類の写しと、根拠になった記録(法定帳簿など)を、支給決定日の翌日から5年間保存します。
調査の依頼があったときの準備はできているか 労働局から調査の依頼があったときは、協力する必要があります。日ごろから記録を整理しておくと、落ち着いて対応できます。

制度ごとに必要な書類や要件は異なります。必ず、申請する助成金の支給要領や、労働局・ハローワークの案内で最新の内容をご確認ください。

もし、申請内容に誤りがあったかもしれないと気づいたら まず、何が実際に起きたのか、事実を時系列で整理しましょう。そのうえで、申請先の労働局やハローワーク、社労士などの専門家に早めに相談してください。


参考資料・出典


助成金の申請に不安がある場合は専門家に相談を

助成金は、条件を満たしたうえで、実態どおりに申請すれば、会社の力になる制度です。不正受給を避けたい経営者の方にとって大切なのは、次の3つです。

  1. 申請する前に、制度の要件と必要書類を確認する
  2. 日ごろから、出勤簿・賃金台帳・雇用契約書などを正しく整える
  3. 申請書は、任せきりにせず、提出前に自分の目で確認する

「この取り組みは対象になるのか」「今の記録で足りるのか」「過去の申請内容に不安がある」といった場合は、申請の前に、一度ご相談ください。事実関係の整理から、要件の確認、書類の準備まで、ご一緒に進めます。

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